新型コロナウイルスワクチン接種について(視覚支援等の参考資料)

2021年、新型コロナウイルスワクチン接種が始まりました。
精神障害者保健福祉手帳や療育手帳を所持している方は、「基礎疾患をお持ちの方」として、高齢者の次の接種順位となっています。
★厚労省から発出されている文書は以下のリンクから
2021-03-19新型コロナウイルスワクチンの接種順位の上位に位置づける基礎疾患を有する者の範囲について

そこで当会では、ワクチン接種が実施されるにあたり、ASD児者がこれから行われることを理解し、少しでも安心して接種を受けられるよう、「保護者からASD児者に情報を伝えるための補助具」として、絵カードや、ワクチン接種の見通し等、どのように伝えたらよいかのサンプル例を提示させていただくこととしました。
必要とされる方にお使いいただければと、作成した支援ツールを公開いたします。

はじめに ~自閉スペクトラム症(ASD)児者の方々について~
(親として感じていること)

自閉スペクトラム症(ASD)児者の多くは、「自分の身に何が起こるか、どうすれば良いのか、それがいつ終わるのか、終わったらどうすれば良いのか」などの「見通し」が持てないととても不安になる人たちであることに加え、聴覚よりも視覚優位の特性を持つ人が多いため、情報をわかりやすく・視覚的に・何度でも確認ができるよう、情報提供の方法を工夫することが必要です。

加えて、ASD児者は社会的な暗黙のルールを察することが苦手であり、自然に覚えていくことが非常に難しいため、これから起きることをていねいに教えてあげる必要があります。

このような特性から、これから起きることが「わからない」「不安」となることが多く、情報を伝えないまま無理矢理やらせてしまうことで癇癪(パニック)を引き起こしてしまったり、「恐怖」や「嫌な経験」を積み重ねてしまい「忘れられない記憶」が今後の活動に影響を及ぼすことが考えられます。

支援ツールをご利用いただくにあたって(必ずお読みください)

できれば、普段から「目で見てわかる支援(視覚支援)」をされていることが重要です。
しかし、「ASD児者は視覚優位の方が多いから、見せれば必ずわかる」ということではありません。
また、大人の側からやってほしいことを伝えるためだけに「目で見てわかる支援」を使うものでもありません。
そのように考えると、今回のワクチン接種のように「恐怖」や「不安」を強く感じるものについての提示は非常に難しく、私達も公開することをかなり悩みましたが、「何も知らされずに連れていかれて大嫌いな注射を打たれる」ことの方がASD児者にとってはるかに嫌なのではないかと思い、「これからやること」についてASD児者に最低限の情報提供を行う意味で作成しました。

◆ASD児者に何を伝えるか?

①ワクチン接種を受ける意味を伝えましょう。
既に国や県から出ているパンフなどを活用して伝えましょう。
ご本人が納得することが重要です。

②いつ・どこでワクチン接種を受けるのか伝えましょう。
日頃からスケジュールなどで予定を伝えている方はその方法を使って伝えましょう。
会場にはどうやって行くのか等、個々の家庭で異なりますので、「会場までどうやって
行くのか」からのスケジュールを伝えるようにしましょう。

③ワクチン接種を受ける当日の手順を伝えましょう。
なにが・どの順で行われるのか。
伝えるタイミングは、当日の朝。少なくとも、家を出る前に。
接種直前に伝えるのは急な変更となりますのでやらないようにしましょう。

★絶対にやってはいけないこと
本人に、何の予告もせずに、ワクチン接種に連れていく
本人に、「痛くないよ」「今日だけだから」などと噓をつく
本人がビックリして暴れた場合に、周りが無理矢理押さえつける

※ 2021年6月現在
今回のワクチン接種は「2回接種」となっています。
「今日だけ」と伝えるのは結果的に嘘を伝えることになってしまうのでやめましょう。
また、今年だけでなく、今後もワクチン接種が行われる可能性を考慮すると
「嫌な経験」とならないよう、正しく伝えることが必要です。

◆伝える際のポイント

うちの子は言えばわかるんです。
ちゃんと周りを見て動けているし。
言えばわかっているのにこういう支援を使うのはよくないって聞いたこともあります。

だからわざわざ視覚支援は必要ないですよね。

 

知的障害のないASD児者の方など、言語指示を理解し、行動できる方もいらっしゃいますが、そうであっても、ことばだけではなく、その方が分かる絵・文字など「目で見て確認できるもの」も一緒に活用しましょう。

当事者の方も「言われた言葉は忘れてしまうこともあるから、何度でも確認ができるように、見ることができると安心。」とおっしゃる方もいます。
「あれ、さっき言われたけど・・・次、なんだっけ?」と不安に押し潰されそうな当事者の方が少しでも安心できるなら、「書いて・見せて・伝える」ことは有効だと思います。

 但し、一人ひとり、理解できる内容が異なります。
例えば、ワクチン接種後に15分待つという内容を伝えるとき。
前提として、そもそも「15分待つ」という事を理解できるかは、その方によって異なります。

また「15分」という時間がわかる方の場合。
この2つのイラストでは同じ「15分」を表していますが、どちらがわかるかもその方によって異なります。日頃からキッチンタイマーなどを使っている方の場合は右の絵の方が分かるかもしれません。
その方にとって
馴染みのあるものを活用しましょう。

◆視覚支援は・・・

視覚支援は、言われている内容を正しく理解するため、思い違いや誤解を避けるため、忘れてしまう特性があっても、目で見て確認できるから安心など、それぞれの方で使う意味合いが異なります。

絵カードなどの視覚支援は、その絵カードの意味することがご本人の中で繋がらないと使えないものです。
日常生活の中で、使い慣れていないと有効なものとはなりません。

スケジュールや手順書に変更がある場合に、変更を目で見て分かるように提示され、「変化があっても大丈夫だった」という成功経験を積み重ねて行くうちに、変更に弱いという特性を持っているASD児者たちが「柔軟性」を持つことができるようになります。

世の中、計画通りに進むことは少ないものです。
スケジュールを日常生活の中で活用し続けることで計画を立てても変更があるということを理解していくと、ASD児者の日常が楽になっていきます。

支援はASD児者が安心して過ごすための補助的なものです。
・言われたことを忘れてしまうお子さんには目で見て分かるモノが提示されていれば安心
・自分が何をすればいいのか分からなくて不安な子はスケジュールなどがあると見通しが立ち、安心。
・確認を周囲の人にしなくても、目で見て分かる物があると安心。
・自分でスケジュールを立てることが苦手なお子さんは「こうすれば良いのか」と学ぶ機会になる
・誰かに言われて動くのではなく、自分で自主的に動くこともできるようにな
・今、何をすべきなのか分からずになかなか取り組んでいることを止めることができない子が、スケジュールを見ることで納得して止めることができるようになる
など、子ども達にとって、とても有効なものです。

日々の積み重ねが重要です。
アセスメントを基に、お子さんに合う支援をしていきましょう。

大人になったから今更使っても…ではなく、大人の人たちにも支援は必要ですし、有効です。

長い説明でしたが、ここまでしっかりとお読みいただきましたこと、心より感謝いたします。


作成した支援ツール「保護者からASD児者に情報を伝えるための補助具」として

ASD児者がイメージしやすいようイラストを使っていますが、文字だけでわかる方はイラスト部分をカットするなどしてお使いいただいて構いません。
※ 資料に使用したイラストは「いらすとや」の素材を使用させていただきました。

  一部、イラストを加工した部分については、「いらすとや」サイト管理者の方の
承認を得ております。

  • ワクチン接種について「一覧表形式」

A4 1枚の印刷資料となっております。
接種時に行われることを順に表記してあります。
印刷してお使いいただけます。(左の絵をクリックしてください)

右側の空き枠を使い、終わったらチェックを入れていくことで、「次は何が行われるのか」を伝えることができます。

ものごとの「おわり」が認識しづらいASD児者に「ここまでやったら終わりなんだな」と理解いただけるよう、最後に「おわり」の表記を付けています。

<使用サンプル>

写真のように、印刷してホワイトボードに貼り、「これからすること」の箇所に赤枠を移動させて、ご本人に「これから何が行われるか」を伝える方法があります。

(赤枠は、赤いマグネットシートを切り取って作成しています。)

「終わったら消していく」方法も有効です。
横線で消していくことで理解できる方もおられますし、右側の空き枠を使い、チェックを入れていく・好きなシールを貼ることで理解できる方もおられます。

  • 家からのスケジュール

「家から車に乗って出かける」ということも併せて提示しているバージョンです。
絵カードを一つずつバラしてラミネートし、裏面にマグネットを付けてホワイトボードに貼っています。

「おわり」の袋を付けています。
終わった絵カードを「おわり」の袋に自分で入れていきます。

自分でおわり袋に入れることで「これは終わった」と納得して次に進むことができます。

基本は「ご本人が納得して進めること」が大切ですので、チェックや絵カードの移動も周りがするのではなく「ご本人に」行ってもらうことが重要です。(ご本人ができない・やらない場合は、ご本人に見せて一緒に行うなどしてあげてください。)

  • ジャバラ式
    公開している「一覧表形式」を印刷し、ジャバラに折って使うこともできます。
    表側に「次にやること」を向けて使います。

  • ワクチン接種について「一覧表形式」携帯用

持ち歩きに便利な携帯用として、市販のクリップボードに挟んで使うタイプも公開しています。(左の絵をクリックしてください)

こちらも上記A4版と同様「終わったら消していく」方法も有効です。
横線で消していくことで理解できる方もおられますし、右側の空き枠を使い、チェックを入れていく・好きなシールを貼ることで理解できる方もおられます。

基本は「ご本人が納得して進めること」が大切ですので、チェックも周りがするのではなく「ご本人に」行ってもらうことが必要です。(ご本人ができない・やらない場合は、ご本人に見せて一緒に行うなどしてあげてください。)

【応用編】こんな使い方もあります

  • めくり式(卓上式)

1つの工程ごとに終わったらめくっていく方式です。
一覧表のように情報がたくさんあると混乱してしまう人や、集中が難しい人に。

【作成方法】
厚紙や工作用紙等で三角(△)の台座を作る。
工程ごとに絵カードを作りラミネートし、台座と絵カードの上部にパンチ穴を2か所開ける。
市販のカードリングで、台座と絵カードを留める。

  • めくり式(携帯型)

上記「卓上式」同様、1つの工程ごとに終わったらめくっていく方式ですが、持ち運びしやすいよう携帯型としています。
但し、カードがバラバラと動き、次の順番でないカードが表になってしまうこともあるので、使用時には注意。

【作成方法】
絵カードをラミネートし、左上にパンチ穴を1か所開けて市販のカードリングで留める。


  • 接種を終えて・・・感じたこと
    ワクチン接種の際、「腕をだらんと下に下げてください」という指示=腕の力を抜く必要があります。
    口頭で「腕の力を抜いて」と言われた場合に、その意味を理解して行動に移せるかどうか。は大事なポイントになってくると思います。
    (ASDの人たちにとって「力を抜く」ということはイメージがしづらい部分かと思います。事前にご家庭で、お子さんの力の入り具合や、口頭指示した時にどうなのか?等、試してみることをおすすめします。)

    <会員さんより>
    我が家の高機能圏の子どもは、この指示に対して、腕の力だけを抜くというのは難しかった?のか、全身全てを「だらーん」と脱力していました。結果的に腕の力も抜けたし、あながち間違いではないのですが・・・(苦笑)こういう難しさがあるんだなと改めて感じたできごとでした。

  • ワクチンについて・ワクチン接種後の説明

  ワクチンについての説明は、国や県から様々なパンフレットが出ています。
  ご本人が理解できるものを・理解できる方法でお伝えください。

  ワクチン接種後の説明には、次回の接種について知らせたり、また、ワクチン
接種後、
ご本人から体調を報告してもらうためのイラストも入れたシートを
作りました。

  ASD児者が自身の体調を伝えることは容易ではありません。
  シートのイラストを指差してもらうなどして、体調を伝えてもらえたら・・・
と思います。

ワクチンについての説明(知的障害のある人向け)
ワクチンについての説明(HF)  知的障害のない人向けです。

※ 接種後に会場で配布される「新型コロナウイルスワクチンの接種を受けた方へ」
(埼玉県新型コロナウイルスワクチンチーム発行)には「起こるかもしれない症状」
「起こるかもしれない重い症状(アナフィラキシー)」についてイラストで説明され
ています。こちらのイラストを使用し、
ご本人に体調を説明してもらうこともできる
と思います。ぜひ有効に活用してください。

このページに公開している資料はあくまで参考事例です。
ご自分のお子さんに分かるものを用意してあげてくださいね。

その他・接種当日の不安について・・・

<マスクがつけられない>
感覚の過敏さ等により、日常的にマスクをつけることが難しい方へ。
周囲の方々に理解してもらうための資料として、厚労省ホームページに「マスク等の着用が困難な状態にある発達障害のある方等への理解について」とした掲載があります。
また、埼玉県ホームページ内に「マスクをつけられない方を知っていますか」とした掲載があります。

マスクがつけられないことの意思表示をするため、バッジなども各種あります。
「感覚過敏研究所」様ホームページ 
マスクがつけられない人のための意思表示マーク・カード

<接種後15分の経過観察を行う際、その場で待つことが難しい>
今回、当会で公開しているような支援ツールを使ったとしても、その場で接種後15分という待機時間を過ごすことが難しい場合もあるかと思います。

埼玉県が作成・配布している「サポート手帳」には、黄色の「サポートカード」が付属されており、そこに医療面で「このようなサポートをしていただけると助かります」といった事項を記入できるようになっており、病院の窓口などに提出し、サポートをお願いすることができます。
※但し、カードを提出したとしても、今回のワクチン接種時に配慮いただけるかどうかはわかりません。
※「サポートカード」は「サポート手帳」に付属しているカードのため、ダウンロード使用はできません。各市町村の障害福祉担当窓口でサポート手帳を配布していますので、サポート手帳を入手してご使用ください。

3回目のワクチン接種について

2022年になり、前年に2回のワクチン接種を受けてから6か月が経過した方については、3回目のワクチン接種が行われることとなり、接種が進んでいることと思います。

1・2回目のワクチン接種(ファイザー社)を受けた際、接種後に会場で配布された「新型コロナウイルスワクチンの接種を受けた方へ」(埼玉県新型コロナウイルスワクチンチーム発行)には「起こるかもしれない症状」「起こるかもしれない重い症状(アナフィラキシー)」について、いらすとやさんのイラストを使って説明されており、ASDの人たちにも理解しやすいものでした。
そこで、当会でも「こちらの用紙のイラストを使用し、
ご本人に体調を説明してもらうこともできると思います。ぜひ有効に活用してください。」とお伝えしていたところです。

2022年3月現在、3回目の接種として武田/モデルナ社が使われているケースが多いようですが、同じく接種後に会場で配布される「新型コロナワクチンの【3回目接種】を受けた方へ 武田/モデルナ社用(3回目)」(埼玉県新型コロナウイルスワクチンチーム発行)につきましては、イラスト説明部分にピクトグラム表記が使われています。
ここで使われているピクトグラム表記、残念ながらASDの人たちにとっては「意味を取り違えてしまうピクトグラム」が多くあるようです。

そこで当会では、いらすとやさんのイラストを使用し、体調変化を伝えるシートを作成しました。(こちらは「モデルナ社用」の「起こるかもしれない症状」のデータを使用して作っています。お間違えなきようお願いします。)

必要な方は以下よりお使いください。

ワクチン接種後の体調変化アナフィラキシーモデルナ(知的障害のある人向け)
ワクチンについての説明・体調変化3回目以降モデルナ(知的障害のある人向け)

支援に携わってくださる方々へ

埼玉県発達障害総合支援センターから県内各市町村に、当会で公開している資料の他、会場掲示用の資料をお知らせいただきました。どうもありがとうございます。

  • 会場用 kaijyou(会場掲示用にお使いいただけます。一覧表と同じイラストを使っていますので、ASD児者が一覧表とマッチングして使うことができます。)

<ご理解・ご配慮をお願いいたします>

  • ASDのある人たちの中には感覚の過敏さ等によりマスクをつけることが困難な方がいらっしゃいます。ご理解をお願いいたします。
  • ASDのある人たちの中には、接種後15分の経過観察を行う際、その場で待つことが難しい方がいらっしゃいます。
    その場での待機がどうしても難しい場合、自家用車の中で規定時間待つことを許可いただける等、柔軟な対応をご検討いただけますと幸いです。